maru 1/3 ナウシカ製作記 

VOL.4 上着編-------------1/1


"風の谷のナウシカ"は
我々の(延長線上の)文明が崩壊した
遥か未来の物語です。

で、衣装は、物語の世界観(文化)を表す
大切なアイテムだと思うのです。

ですから、主人公 ナウシカの上着は
この物語の世界観を表す大切な道具と
ならなければいけません。

まず、原作から、
ナウシカの上着のイメージを妄想してみます。

注: ここからしばらくは、私、腰痛の中2病的な
ナウシカ世界観の妄想が続きます。
うっとうしい方は、******************** の所まで
読み飛ばしてくださいませm(_ _)m。


まず、(原作版の)ナウシカの上着の設定は、
"土鬼の老女が、娘の形見(晴着)をナウシカに与えたもの"
であり、 その服を
"ナウシカが飛行服に仕立て直したもの"
となっています。


では 最初に、土鬼がどんな国かというと----
(時間節約のため、概略をwikpediaで調べましたm(_ _)m)

トルメキアと拮抗する国家連合。
皇帝領、7つの大侯国、20余の小侯国と
23の小部族国家での計51か国から成り立つ。

つまり 色々な国のごちゃまぜ といった感じです。(笑)


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Fig. 4-1 
参考文献 : 宮崎駿、アニメージュコミック ワイド版 風の谷のナウシカ2、徳間書店。

原作2巻に登場する"土鬼の浮砲台"の中にいる
人々(難民?)の女性たちの衣装は、中東風か多い様に感じます。
多分、"小部族国家=中東"というイメージなのかなと----。

で、中東の民族衣装に、
ナウシカの上着に似たものはないかと
念のため、調べてみたのですが----
やっぱり、ナウシカの上着っぽいものは、
(私の調べた範囲では)見つかりませんでした----(涙)。

というわけで、素直に行くことにしました。
ナウシカの上着につながりそうなキャラは。
やはり、---------


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Fig. 4-2 
参考文献 : 宮崎駿、アニメージュコミック ワイド版 風の谷のナウシカ2、徳間書店。

土鬼のケチャの衣装です。

ケチャは、"浮砲台"の中で、ナウシカに
上着を与えた老女の知り合いであることから
多分、前述の老女とチャケは同族(もしくは近い部族)である
と勝手に妄想しました。

ケチャの衣装ですが、
襟元が和服などにもみられる
"襟合わせ"風
裾にはビラビラの"フリンジ"がつきます。

つまり、 土鬼の若い女性の民族衣装(の1つ)は
(注 あくまで 1バリエーションです)
○"襟合わせ"風=東洋
○裾のフリンジ=アメリカインディアン

となり、"東洋"と"アメリカインディアン"を
合わせたイメージと妄想できます。

上記を踏まえて、
改めてナウシカの上着を見ますと、


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Fig. 4-3 
参考文献 : 宮崎駿、アニメージュコミック ワイド版 風の谷のナウシカ2、徳間書店。

全体のイメージはチャイナドレス風=東洋
袖と裾にヒラヒラの"フリンジ"=アメリカインディアン
更に、胸の翼を広げた鳥のような文様は
アイヌ民族の "アイヌ文様"=東洋
に見えてきました。
(注 : ベルトはナウシカが持っていたもの)


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Fig. 4-4 
参考文献 : 知里むつみ、日本の先住民族アイヌを知ろう! Aアイヌ民族のことばと文化、株式会社 汐文社。

ちなみに、アイヌ文様とは、
こんな文様です。

下側の赤い十字文様が
 ナウシカの胸の文様の赤い部分と
イメージがダブります。


そういえば、ジブリの映画"もののけ姫"でも、
アシタカの住んでいた、エミシの村の老巫女ヒイ様が
アイヌ文様風の衣装(宮崎駿氏によれば、"アイヌともちがう 古式の文様")
を着ていました。
(アイヌ文様と宮崎作品の関連性も イケそうです!!)

つまり、ナウシカの上着は
土鬼の若い女性の民族衣装(の1つ)="東洋"+"アメリカインディアン"

ああっ、 やっと ケチャの衣装の意匠と合致しました。


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Fig. 4-5 
参考文献 : 宮崎駿、アニメージュコミック ワイド版 風の谷のナウシカ6、徳間書店。

その土鬼の民族衣装の裾を短く詰めて、
(多分裾の端布から作った)弾薬帯の胸飾りを着けたのが、
劇中のナウシカの上着となります。
(ナウシカは飛行帽も、詰めた裾の端布から、製作してます)


では、具体的に、
ナウシカの上着のデザインを決めていきます。


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Fig. 4-6 
参考文献 : 萩野矢 慶記 著、萩野矢慶記写真集 雲南25の少数民族、(株)里文出版。

まず、全体のシルエットは、 チャイナドレスをもう少し煮詰めて、
中国 雲南省の少数民族の衣装を参考にします。
(ナウシカの上着全体のイメージを、
少数民族の民族衣装でまとめることにしました)


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Fig. 4-7 
参考文献 : 萩野矢 慶記 著、萩野矢慶記写真集 雲南25の少数民族、(株)里文出版。

上記、参考文献の写真集から、

こんな感じで、まとめたいと思います。


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Fig. 4-8 
参考文献 : 知里むつみ、日本の先住民族アイヌを知ろう! Aアイヌ民族のことばと文化、株式会社 汐文社。

ナウシカの胸の胸の、翼を広げた鳥のような模様は、
アイヌ民族の アイヌ模様とその縫い方を参考にします。

白い文様の中央付近を走る縫い目が、独特で美しくて 素敵です。

調べてみますと、このアイヌ文様は、
晴着に入れるとのことで、
ああっ、 ナウシカの上着の設定とも繋がった!!

で、このアイヌ文様、
母親の家系の文様を代々受け継ぐそうで、
ということは----ナウシカの上着の胸にある、
翼を広げた鳥の様な文様は
ナウシカに上着を与えた 老女の家系の文様
ということなのでしょうね。

改めて Fig.---のケチャの衣装を見ますと、


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Fig. 4-9 
参考文献 右 : 宮崎駿、アニメージュコミック ワイド版 風の谷のナウシカ2、徳間書店。
参考文献 左 : 川上高広 編集、トランベール 第27巻第8号、、東日本旅客鉄道株式会社。

ケチャの頭にも、アイヌの鉢巻(マタンプというそうです)の様な
文様の入った帽子を被っています。
蛙の顔の様な文様はケチャの母親の家系の文様と妄想します。

----ということは、
  土鬼の母親の家系を示す文様は
(アイヌ文様と同様に)、鳥や蛙といった、
自然をモチーフとした文様なのでは
とか----色々妄想が止まらなくなります(苦笑)。


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Fig. 4-10 
参考文献 : デヴィッド・マードック、「知」のビジュアル百科 37 写真で見るアメリカ・インディアンの世界、あすなろ書房。

○袖や裾についているヒラヒラの"フリンジ"は
アメリカインディアンの民族衣装を参考にします。

私は常々、
形には全て意味があると考えてます。
で、気になったのが、"フリンジ"のヒラヒラ 

これは、一体何のためのものだろうと調べてみますと、
"フリンジ"とは、もともと、服に雨がかかって濡れた時、
このヒラヒラ部分から水を流し、
服を早く乾かすためのものだそうです。

ん?
しかし、考えてみますと、
ナウシカの原作中には雨のシーンが
登場しなかったと思います。
たしか、映画版 風の谷のナウシカでは、
風の谷の貯水池を300年も守ったきたのが森であると言っています。
つまり、ナウシカ周辺の世界は、雨がほとんど降らないと妄想できます。

でも、土鬼の若い女性の民族衣装には
雨に濡れた服を早く乾かすための"フリンジ"が存在する----?

ということは、土鬼の国では、
雨がよく降るということになりますが
これは、裏付け出来るかでしょうか---


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Fig. 4-11 
参考文献 右 : 宮崎駿、アニメージュコミック ワイド版 風の谷のナウシカ2、徳間書店。

ああっ! 原作の土鬼の浮砲台は木で出来ていました。
浮砲台の内部も木材で出来ている表現がされています。
つまり、土鬼は、木材が豊富にある国ということです。
木材が豊富にあるのなら、雨もよく降ると妄想出来ます。
おおっ!! 設定と繋がった!!!
宮崎さん 詳細な世界設定 さすが です。


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Fig. 4-12 
参考文献 右 : 宮崎駿、アニメージュコミック ワイド版 風の谷のナウシカ2、徳間書店。

ただ、原作では上着の胸元は
こういう風に開くっていうのが、
これは、見なかったことにします-----。

だって、これって、 前述の紋章が
縦に真っ二つに割れるということを意味します。
オリジナルの衣装が、家系を表す大切な紋章を
縦に真っ二つに割るデザインって
恐れ多くて出来ないでしょう----多分

可能性として、
ナウシカが、襟の開き方を仕立て直したとも考えられますが、
出兵前夜にそこまでするでしょうか?
飛行帽と弾薬帯の胸飾りも、
詰めた服の裾から作っていましたので、
服の襟の構造を変えるような時間は無かったと妄想します。

などど、屁理屈をこねてますが、
実際のところは、雲南省の少数民族風の衣装
私、腰痛が気に入っちゃっただけなんですけどね---(照笑)




****************************************************************
(腰痛の中2病的妄想 ここまでです。
 以下は普通の製作記として 御覧になれます----多分----)



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Fig. 4-13 

まず、世界観を確認するため、
原作1巻で着ている、
ナウシカの初期の上着(風の谷版)を試作し、
同時に、中国雲南省の民族衣装風のデザインで
土鬼版の上着も試作します。

製作した胴体に、新聞紙を巻き付け
表面を布テープでコーティングします。
(形状検討用試作の為 この辺の作り方
省略します。 詳細は 後述します。)



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Fig. 4-14 

だいたい
こんな感じでしょうか

ざっくりと CADで型紙を起こして
縫っていきます。
(形状検討用なので 型紙は省略します)

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Fig.4-15 
参考文献 右 : 宮崎駿、アニメージュコミック ワイド版 風の谷のナウシカ2、徳間書店。

原作版ナウシカの上着(風の谷版)です。
上着の材質はフェルトとなっています。


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Fig. 4-16 

試作用の上着は、フェルトに見た目が近い、
伸縮性のある、バックスキン風の化繊を使用しました。

色は、ナウシカの上着に近い
空色としました。

縫い幅は1.5mmにします。
半円で構成された1目盛か、1.5mmです。

この目盛に沿って、運針します。


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Fig. 4-17 

肩のところは 学生服っぽい感じにするため、
縫い縮めます。
(この縫い方、めんどくさいから嫌いです)


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Fig. 4-18 

全体は こんな感じになります。

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Fig. 4-19 

試作品、 一応 出来ました。
左が原作1巻で着ている風の谷版の上着。
右が中国雲南省の少数民族の衣装風の上着です。

ついでに、スパッツも
フェルトでざっくり縫って、試作してみました。
(ズボンもざっくり縫ってます-----)
(↑ 実は 裁縫好き)


う〜ん
雲南省の民族衣装風で
特に違和感は無さそうなので
正式版の型紙 作ります。

ただし、
土鬼版の上着(写真上側)
正面の胸の下から腰にかけての
左右のカットの入り方が
風の谷版と同じでは変だなー
-----後で服の展開図で修正しました。


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Fig. 4-20 

正式版の型紙 起こします。
(型紙の作り方 詳しく描きます)

まず、帯状に切った新聞紙を
製作した体に巻き付けます。


U22
Fig. 4-21 

腰周りは こんな感じで
巻き付けます。


U23
Fig. 4-22 

新聞紙の表面に
布テープを貼ります。


U24
Fig. 4-23 

腰周り、裾の広がりは、


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Fig. 4-24 

こんな風に、
ハサミで切りこみを入れて

布テープで広げます。


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Fig. 3-4-25 

イメージに合うように
広げます。


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Fig. 4-26 

体の中心に油性マジックで
センターラインを入れてます。


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Fig. 4-27 

同様に、腕にも新聞紙を巻き、
布テープでコーティングします。

胸には 鳥が翼を広げた様な文様と、
長銃の弾薬帯の胸飾りを書き込みます。

胸元(襟元)の開き方は、チャイナドレス風にしました。


U29
Fig. 4-28 

色んな角度から見て
破綻の無い様に形を出していきます。

この形が、ナウシカの上着の形を決定します。
妥協せずに、じっくり、納得する形にしましょう。


U32
Fig. 4-29 

こんな感じにしました。

私は、服のデザイン画などという
オシャレなものは描けません-----(涙)
この形が、私の服の立体スケッチになります。

この原型を切り開いて、
型紙を作ります。

切り開いた原型をスキャナーで読み込み
CADで修正(対称性とか、不自然な曲率の修正等)しながら、
型紙を製作します。

結局 前述の胸から腰にかけてのカット
雲南の民族衣装風に 変更しました。



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クリックすると、拡大図が表示されます。
Fig. 4-30 

製作した型紙です。
(型紙なので 左右反転してます。)
 
ポイントは、半径1.5mmで描いた縫い目の印です。
この印の数が、縫い合わす所同士が、
ぴったり数が合うように調整してます。
(ですから、この型紙は 布よりは革細工の型紙に近いです)

この型紙を基に
本チャンのナウシカの上着は
豚革のバックスキンを使用しました。

ここで、注意として、
フリンジのヒラヒラは、フリーハンドで
少し不揃いになった方が面白いです。

運針用ガイドは、袖上げ等で縫う時に、
両面テープで張り付けて、縫う時の縫い目の幅の
ガイドにします。


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Fig. 4-31 

バックスキンを使用するのは、以下の4つの理由からです

@ナウシカの上着の設定であるフェルトの質感に
一番近かったため。

A革の染色が、非常に自然の色
(王蟲の体液の色に染まったイメージ)に
近かったため。

B私、服 縫うの今回が初めてなんです-----(恥)
革だったら、人形用のブーツや、鞄つくったことあるので、
なんとかなるかと------

Cナウシカの上着で、
広がった裾は本デザインの一つのこだわりとなります。
衣装の素材にある程度の重みを持たせ、
自然な裾の広がりや、皺を表現したかったため


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Fig. 4-32 

念のため、製作した型紙を用いて
合皮で2次試作をします。

こんな感じになります。
袖等の皺のより方も、いい感じです。

大丈夫そうですね。

では、
いよいよ 本番です。



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Fig. 4-33 

型紙を両面テープで豚革に張り付け
よく切れる新しいカッターナイフで切り出します。
(カッターの刃は、 少し、切れ味が落ちたら、すぐ、新しい刃に変更すること)

あとは、ひたすら、
1.5mm幅の縫い目に従って
本返し縫いしていきます-----って--地味


U39 U40
Fig. 4-44 

縫い終わりました。

胸の紋章と、弾薬帯の飾りは
白い糸で、縫って、印をつけておきます。

で、ここで失敗!!!
型紙を革に張り付けた両面テープが
強力で、剥がすと、革の母材ごと剥がれてきます。

しょうがないので
Mr.カラー用薄め液で洗って、両面テープの糊
溶かして落としました。


U41
Fig. 4-45 

裏返します。

右の襟合わせ部分に、飾り(右前の端飾り)を縫い付け、
裾にフリンジを縫い付け、
更に、胸に紋章を
アイヌ文様風に
縫い付けていきます。


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Fig. 4-46 

こんな感じになります。

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Fig. 4-47 

弾薬帯の胸飾りは
こんな感じに縫い、
胸に縫い付けます。


B01A
Fig. 4-48 



------つづく------



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